グリムグリモア小話 68
ハロウィーンのアドリレです
アドヴォカート、リレを甘やかすの巻。
・・・と言っても、最近甘やかしてばかりですが・・・(^^;)



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アドヴォカートはふぅと大きくため息をつき、読んでいたグリモアを机に置いた。

先ほどから、机の前を三角帽子が右へ左へと忙しない。
そのうえ、子供特有のきゃっきゃっという笑い声のおまけつきだ。
魔法学校の子供の声よりも高く幼い声は、ふにゃふにゃしている割によく通り、ここが黒魔術教師の部屋ということを忘れさせる。
「今度はイエローくんが鬼だよ!よぉ~い、どん!」
インプたちのニシシ~という笑い声も加わり、アドヴォカートの部屋は俄かに騒がしくなった。
「・・・・・・。」
呆れてものが言えないとはこのことだ。
アドヴォカートは頬杖をつき、目の前の遊戯を眺めていた。
インプたちの先頭ではしゃいでいるのは、この国の大魔法官リレ・ブラウ。
ハロウィンは子ども姿でないと楽しんではいけないと思っているのか、リレは子供の姿で楽しそうに駆け回っていた。



「こ・こんにちは・・・」
リレがアドヴォカートの部屋を訪れたのは数時間前。いつもの半分くらいの大きさになったリレは、おどおどした様子で扉の前に立っていた。
「・・・今年もですか。」
呆れ声でアドヴォカートが言うと、リレはブラウスの裾を弄りながらこくんと小さく頷く。
去年もリレは子供の姿でアドヴォカートのもとへと現れた。最初はただ単にアドヴォカートを驚かそうと思っただけだったが、子供の姿は予想外にいろいろと都合が良かったようで、今年も去年同様魔法で変化したらしい。
「・・・まあ、いいでしょう。中へお入りなさい。あなたの大好きなお菓子の用意はできていますよ。」
ぱあとリレの顔が明るくなった。「おじゃましま~す。」と、パタパタ音を立てながら小走りで部屋に入り、ぴょこんと椅子に座り、足をぶらぶらさせながらアドヴォカートを待つ。アドヴォカートが菓子でいっぱいの籠を持って現れると、リレは歓声を上げた。
「どうぞ召し上がれ。」
それからリレの至福の時が始まった。頬を紅潮させ、アドヴォカートが止めないことをいいことに、籠の中のお菓子に次から次へと手を伸ばす。
「おいし~!」とひとしきりお菓子を食べ終わると、今度は元気よく椅子から飛び降りた。
そして部屋の片隅で寝ていたインプたちを「かくれんぼしよう!」とたたき起こし、現在に至る、というわけだ。
「リレはかくれんぼ得意だよ!」
こう言って得意げに笑っていたが、どうやら本当のようで今のところリレは5戦全勝である。
「イ~チ、ニ、サン・・・・」
黄色の帽子をかぶったインプが目を覆い、数を数え始めた。二匹のインプとリレは蜘蛛の子が散るようにその場からぱっと離れたかと思うと、よい隠れ場所はないかと部屋の中をきょろきょろ見渡す。
インプたちは、それぞれ右と左のカーテンの陰に隠れた。
リレはと言うと、一旦は暖炉やテーブルの下に隠れてはみたものの、しっくりこないらしくまだウロウロしていた。
その時アドヴォカートとリレの目が合った。
「あ!」
ぱちんと両手を合わせ、リレはアドヴォカートの机に駆け寄る。
「せんせい、せんせい、ちょっとどいて!」
アドヴォカートが「うん?」と体をずらすと、リレはするりとアドヴォカートの足もとに滑り込み、
「せんせい、し~っ、だからね!」
口の前に指を立て、念を押した。
「はいはい」とアドヴォカートは頷き、椅子を元に戻した。リレはにこにこしながら、膝を抱えて体を丸めた。
「ニジュ~!」
20まで数え終わったインプがニシシと一回転し、部屋を探索し始める。本棚の影や暖炉、大きな壺のうしろ。この部屋には他にも隠れる場所がたくさんある。だがインプ同士考えることが似ているのだろうか、カーテンの陰に隠れた二匹は鬼にすぐ見つかってしまった。
残るはリレ一人。三匹は「リレ、ドコ?」とふらふら歩きだした。
アドヴォカートはそっと足元を盗み見る。リレは静かなものだ。インプたちが困っているのを楽しんでいるのだろうか?
「リレ、ドコ~!」
焦れたインプたちはばたばた大きな音を立てながら、本棚を叩いたりカーテンを捲ったりし始めた。
―――なんて粗野だ・・・。
このままでは部屋に傷でもつきかねない。アドヴォカートは足先で、丸まっているリレを軽く小突いた。だがリレからは、うんともすんとも反応がない。
もう一度小突いても返事がないので、アドヴォカートは机の下を覗き込んだ。
「・・・おや、まあ。」
返事がないのも合点がいく。
リレは膝を抱えたまま、すやすやと眠りについていた。
子供なのに、普段の大人の調子で走り回っていたためであろう。床に腰を下ろしたら、疲れがでてきたに違いない。加えて程よい暗さに瞼が重くなり、そのまま目を閉じてしまったのではないか。
「リレ、イタ。」
いつの間にかインプたちがアドヴォカートの背後に来ていた。
「リレ、寝テル。」
「スヤスヤ。」
アドヴォカートの足もとを覗き込み、ニシシと笑い合う。
「・・・お前たち。」
ひんやりとした声がインプたちの耳に響いた。
「お遊びはここまでだ。」
ひぃっと三匹は飛び上がった。何か主人の気に障る事をしたのだろうかと考えるが結局思いつかず、ただ冷や汗を流しながら恐ろしい主人を見上げていた。
アドヴォカートは机の下からリレを引きずりだし、抱え上げる。ちらりとインプたちを一瞥し、
「・・・今日はもう休め。」
と、口にした。
三匹は耳を疑った。あの冷酷無情、極悪非道のアドヴォカートが下僕を気遣う発言をするとは・・・!目を丸くして主人を見上げていると、
「・・・なんだ、その目は。罰が望みだったか?」
冷たい目で見下ろされる。
さわらぬアドヴォカートにたたりなし。
三匹はものすごい勢いで首を左右に振りながら、一目散に逃げて行った。



アドヴォカートは寝室へとリレを運ぶ。
小さなリレには大きすぎるベッドだったが、それでもアドヴォカートは構わず真ん中にリレを寝かせた。
「やれやれ・・・。子供にならずとも、私ならいくらでも甘やかしてあげるというのに・・・。」
甘え下手にもほどがある。
もしそう言ったらリレはなんと言うのだろうか。
頬を染め、怒った様子で「だってそんなの、グリモアには書いてないもの」とでも言うのだろうか?
あすの朝にでも聞いてみるとしよう。
アドヴォカートはリレに毛布をかけ、自らも隣に横になった。

「おやすみなさい、良い夢を。」




【あとがき】
昨年に引き続き、リレを小さくしてみました。
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