施し とは。。。

2009年4月12日
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施し とは。。。

『施し』 とは。 うーん、むずかしい。
与える側に、「お品」が出ちゃいますからね、その人の。
なので、私はやったことありません。すみません。
でも、その現場にいたことはあるので、
今夜はその思い出を貴方に。(注:カッコつけるような内容ではない)

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☆あぁ施しや その1


昔は、田舎にも浮浪者がいた。
あの頃は、「ルンペン」と呼ばれていた。
特に、私の家は線路のそばだったので、
真っ黒でボロボロのなりをして線路を歩いていく、
そういう人たち(主に おっさん)を、たまに見かけたものだ。


ある夏盛りの暑い日。
真っ黒い人影が、庭先に現れた。
急いで家の中に戻る子どもたち。その中に私もいた。


窓を閉め、カーテンを閉め、隙間から覗いて見る。
「誰?」
「きったねー、なんだ、このおやじ?」
「こえー」


父が出て行った。
何か一言、ふた言、やりとりをして、
父が突然、家の中に怒鳴った。母を呼ぶ。
「○○子! 水! 水もってきてやれ!!」


ドタドタドタ・・・母が慌てて台所に走る音が聴こえ、
コップに水をくんで玄関に走り出た。


「ほらよ」
父からコップを受け取ったルンペン。
飲まない。
父が促す。飲まない。
父の額から汗が流れ出す。
ものすごい暑さだ。


また二人の間に やりとりがあり、
突然、父がルンペンに向かって蹴りを入れた。





ルンペンはおののき、コップは地面に落ち、
水は土に染み込んでいく。
父は拳骨をかざしてルンペンを追い、
ルンペンは転がるように門から出て行ってしまった。


???


「あのヤロォ」
家に入ってきた父は興奮していた。
「どうしたの?」
「あのルンペンめ、氷水がいい、なんて ほざきやがって。
何ゼータク言ってんだ、水もらえるだけ感謝しろっての!」
「・・・・・・」


「あれがルンペンなの? 本物? すっげー」
弟は しばらく はしゃいでいた。






☆あぁ施しや その2


母が玄関で立ち話をしている。
めずらしく丁寧な言葉遣い。誰だろ?
そーっと覗くと、上品なおばさんが、
玄関先にいろいろキレイなものを ひろげている。


「これなーに?」
私は出て行ってしまった。
「あらっおじょうちゃんなの? こういうのどうかしら?」
「ウチはこういうのは別に要らないですから」
母が片付けようとするが、おばさんが制して私に手渡した。


天使や神様が描いてある、カレンダーが染め抜かれたハンカチや、
マグカップや、シールなどだった。みんなキレイだった。
「おじょうちゃん、世界にはねぇ、恵まれない子どもたちがたくさんいるのよ。
その子たちのために おばさんは、こういうのを売ってそのお金を
寄付しているの。おじょうちゃんの幸せを、少し分けてくれないかなぁ」


幼い私は深く心を打たれた。そして母に向き直った。
「お母さんっ、買ってあげて。midori 、お小遣いとかも少しガマンするからっ」
澄んだ目をした娘に、おばさんの前でここまで言われりゃ、
母も財布の口を開けないわけにはいかなかったろう。
ハンカチ3枚入り980円、というのを買ってもらった。


おばさんの後姿が見えなくなった後、
母は捨て台詞を残して台所へ消えた。
「おまえ、責任取れよ!」
「・・・責任・・・?」
この意味を、私は何年間か噛み締めることになる。


件のハンカチは、1回学校に持っていった。そう、1回だけ。
一度洗濯すると、見る影も無いほど色が落ちてしまって、
きまりが悪くて持ち歩けなくなってしまったのだ。
天使や神様の絵柄も、冷静になって見てみると、
色使いはキレイだがデッサンは狂っている ひどい絵だったし、
カレンダーも、すぐ使えなくなってしまう。
私は、タンスの抽斗の奥深くに仕舞い込んだ。つもりだった。


そのハンカチだが、すぐに日の目を見ることになった。
遠足時などのお弁当を、母がそれで包むのである。
抗議しても、はたまた隠しても、母は どこからか見つけてきて
そのハンカチで包むことをやめなかった。頑なに。何年も。
しつこいよっ。わかったから(何を?)もういいだろっ。






☆あぁ施しや その3


東京に出てきて最初に住んだのは、都心の安アパートである。
卒業と同時に出てきてしまったので、
学校が始まるまで やることがない。
田舎者の哀しさで、のんびりしてるものだから
バイトもなかなか決まらない。
最低限の生活費のなかで、電話もテレビも無く、
本当に暇だった。


近くに公園があった。
4畳半の部屋で壁や天井を見ているより、
そこでボーッとしたかった。
でもそこは、おじさんたちの住まいだった。
青テントが張られ、3人ほどが寝泊りしているようだった。


ある日。


その日もバイトが決まらず、
くさくさしながら公衆電話からアパートまで戻る途中、
公園の前を通ったら、青テントが片付けられていた。


私はベンチに腰掛けて、ため息をつきながら
アルバイト雑誌を最初から めくり始めた。
隣に座った人がいる。
私は関心も持たずに、小さな字を食い入るように見つめていた。


「あのさ」
話しかけられてビクッとした。
「え・・・あ・・・なんですか」
無言で何かを差し出された。何この黒い塊?
「食わない?」
よく見ると、焼き芋だった。半分の。
「大丈夫だよ、さっき買ったやつだから」
そう言われて顔を上げると、
その人は明らかに、ここの住人と思われた。
怖くて断れなかった。
「・・・どうも・・・」


頭の中がグルグル回る。
何? なんで? 芋? 誰?
どうにも頭の整理がつかず、
帰りたいが帰れず、
芋も好きではないのだが食べないわけにもいかず、
ただ「どうしよう、どうしよう」と考えていた。


その人は、もう半分の焼き芋を齧りながら、話をした。
昔、中学の数学教師だったそうだ。
いろんな歯車が狂って、今は公園に住んでいる身なのだという。
私は、そういう人から施しを受けたのだ。
・・・そんなに可哀相に見えたのかなぁ。 
(ちなみに、昭和40年代あたりの描写に見えますが、
実は、バブル全盛の頃の出来事でございます)














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